ここからこっっちが私の陣地だよ、という遊びを子どもの頃にやったことを思い出す。空き地の地面に棒切れで線を引き、お互いが陣地と言う縄張りをもって、相手を引きずりこむ遊びだ。
いまでは、空き地も棒切れも身の回りになくなってしまって・・・、という話は別のところでゆっくりやるとして、今回はこの「陣地」のはなし。
物事には明快な区分けが必要だ、という発想と、明快な区分けは出来ないはずだということを前提とする考え方があるようだ。
陣地とは、自分の縄張りや領土を明確にしたものだとすれば、陣地内のことは自分たちで責任を持つが、陣地の外については関心外、ということになる。
ウチはうち、ヨソはよそ、ということだ。
結果として、ウチのことは理解するがヨソのことは理解外ということにつながり、場合によってはヨソを恐れる、ということにもなる。
ウチ以外の人たちのことは、よくわからないから。
たとえば、生活習慣が違う、食べ物が違う、言葉が違う・・・。
ヨソのひとたちとも「理解し合おう、協力しよう」と思う。
しかし、ウチとヨソの感覚がどこかでハードルをつくる。
私が子どものころ夢中になって観ていたテレビアニメ番組「ムーミン」。
トベ・ヤンソンス女史原作の、この物語を作家の井上ひさし氏が脚色した初期のアニメ版のことだ。
残念ながら、原作者の理解がその後得られず、現在は正式には放映も映像ソフトの販売も出来ない、と聞く。
しかし、私はこのアニメ番組から「成長する少年の物語り」として実に多くのものを学んでいる。
その作品中に、スナフキンというキャラクターをご存知だと思う。
吟遊詩人、自由人、さすらい人・・・。
つねにクールで、自分と自分の時間を大切にする。
ひとり湖のほとりでテントをたてて暮らし、自由と孤独を愛する。
主人公たちとは一線を画すものの、なにか事件や解決できない難題に少年ムーミンが直面したときには、的確なアドヴァイスをする。
ああしなさい、こうしなさい、と解決策を賢者よろしく明示するのではない。
こういう風に考えてごらん、こういいう考え方も出来るんじゃないかな、
と渦中でものが見えなくなってしまった主人公たちに、客観的なものの見方を示唆する。
解決策を考え行動するのはムーミン、きみ自身なのだよ。
シビレてしまい、将来このような大人になりたいものだと憧れていた。
そんなクールで独特の距離感と考え方の持ち主として作中に登場していたスナフキンだが、とあるエピソードでめずらしく感情をあらわにした、という。
実は、このエピソードをテレビの番組で見た記憶が私には無い。某哲学系の雑誌に昔投稿されていたはなしの受け売りなのだが・・・。
なにかのきっかけがあり、主人公たちの暮らす「ムーミン谷」というエリアを盛り上げよう、という。そして、谷に住む大人たちの提案で「ようこそ、ムーミン谷へ」という大きな看板と門をたてよう、ということになった。
ここから先がムーミン谷です、と旅人を歓迎しよう、という趣向だ。
子どものムーミンたちもよろこんで、門や看板作りに精を出す。
そして、出来上がりつつある立派な門と看板を大好きなスナフキンにも喜んでもらおうとムーミンは声をかけに行く。
しかし。
スナフキンは、関心を示さないばかりか逆に怒ってこんなことを言ったのだそうだ。
「どうして、地面に線を引くんだ。ここからここが、誰かのものだ、っていうことに何の意味があるんだ」
自分たちの領土、ムーミン谷を立派にしようという気持ちで高ぶったムーミンと自由人でありたいスナフキンの間にきまずい空気が流れる瞬間。
ムーミンは、スナフキンも自分たちと同じ「ウチの仲間」のつもりでいた。しかし、スナフキンにはウチとソトという感覚が無い。「ようこそ」と線を引かれた瞬間に両者が区別されてしまうことを、警告したのか・・・。
中学校時代の社会科の先生が、世界地図を見て気づくことを発表しろ、といった授業を今でも思い出す。
先生が望んでいた発言がだれからもなされなかったので、先生から最後に「アフリカの地図をみてごらん。国と国の境に線が引いてるけど、なぜ直線が多いんだろうか?」
ヨーロッパのエリアでは、白地図に色を塗るのが難しくらいに国境線が入り乱れている。しかし、アフリカの中心部は悲しいくらい明確に区切られている。「これは、住んでる人たちが決めた線ではない。だれかが便宜上勝手に引いた線だ。それが誰なのか、なぜこのように引いたのか、引かれたところに住んでいる人たちがどう思っているのか、考えてごらん」
授業に結論もなく、答えもなかった。
投げかけだけが残ったのだ。
私は、いまでもこの投げかけが解決できないでいる。
劇作家のTは「家の玄関を取り払え」と言った。
日本では集落につながる一本道のあるところに道祖神をまつる。 ソトからこの道をたどって悪霊がウチである集落に入り込まないように、とにらみを利かせるのだ。 ここで言う悪霊とは何か?
現在でも、都市部のゴミを地方に廃棄するという構図が消えない。
ウチのごみをソトへ出すのだ。ごみはソトへ出せば、それでウチは解決してしまう。 ここで言うごみとは何か?
線を引くから、区別が出来る。
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お初にお目にかかります。Allegretto氏からご紹介をいただき、やってまいりました。 徒然なるままが苦手などっぷり昭和人間ですので、ここでのテーマを決めてしまいました。かなり以前からこだわっているグレーゾーンについていろいろと考えてみたいと思います。音楽と読書と美術館、そしてなぜか昭和のプロレス、東北贔屓、おいしい餃子を求めて日々を過ごしております。よろしくおねがいします。 |
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