
20年前のそれとはあまりに異なるかけごこち。
あなたのせいではないけれど、つい「うっとり」が「うっかり」になってしまった。
スチームは中途半端、温度調節もスイッチのON・OFFで切り替えるほかなく、とうとうコードまで擦り切れてきた。これが買い替え時ってヤツよね。我が家に新人アイロンを招くことにした2005年の夏。WEBでさんざん調べ、売れ筋に当りはつけていたものの、実際店頭へ赴くとずっと気になっていたティファール社製に釘付けになってしまう。ああもうこの子しかないと、嫁を貰うような心持ちで我が家へ迎えました。

T-FALアイロンは、特許のかけ面が決め手なの。最初に手にした時はずしっと重くて、この細腕で操れるのか少し不安に…なる必要もないかしら。日々のはずせない作業を楽しく改革すべく、評判上々のティファール社に期待したのです。
スイッチオン!シャツにずいっと滑らせる。おっと!いい仕事するわね。

デリリューム加工と呼ばれるかけ面は、本体の重さを忘れさせる軽快な動きを実現。日欧米特許のセラミック製で高温時の滑りもいい。手で圧力をかけるというより、軽く押して滑らせる感覚かな。当初感じた重さはシワのばしに有効に働き、市販の仕上げ剤はほとんど不要。かけ面積の広さも、まえ身ごろ・うしろ身ごろ…と大きくかけられるのでザッと仕上がりご機嫌です。とにかくスピード重視のわたしは、つい衣服のアクセサリー(ファスナーやボタン、フックなど)でアイロンをガリガリやりがちですが、このセラミックは傷にとても強い。形としても、後方がカットされているので方向転換がスムーズ。先端はとがって低くなっているので袖口やボタン周りがきっちりかけられる。ぶーーんとかけて、シャキッ、パリッ。T-FALアイロンは、時に面倒な必須業務を快適作業へ変化させた、なかなかやり手の相棒となりました。それからは日々洗濯する度に、アイロンがけに熱中していたのです。
…がしかし。
しかし、いくら熱中と言っても限度があります。まさかあんなことになるなんて。
8月25日深夜。ぶんぶんアイロンをかけていました。正座して行うため、丁度両脚の上にアイロン台がかぶさる感じです。麻など比較的高温で作業は続き、一旦アイロンを右側に置いて「次はこのブラウス〜」と勇んでアイロン台に広げていました。その時です。相棒を、少々体側の近くに寄せ過ぎていたようです。
じゅっ
音こそしませんが、右腕を開いた瞬間、腕の内側(肘より少し掌側)に鈍い痛みが…。アイロンに右腕が直接触れてしまったのです。そう、あの三角になっている先端部分に、正確には「触れる」というよりは「しっかり押さえる」感じで、5cmほどの二等辺三角形に焼かれてしまいました。一瞬「あう」と思ったのものの、ふいの事故時って妙に冷静な〈つもり〉で行動しちゃう。「冷やさなきゃ〜」と台所の流しへ直行し、流水で清めること数分ばかり。すっかり冷え切った〈つもり〉の私は、ここでアイロンがけをぶんぶんと再開。「ひりひりするなぁ」なんて思いながらね。その後救急箱を取り出し、火傷にもよく使う軟膏を塗り、特大絆創膏を貼って、ハイ!応急処置のできあがり。
翌日は絆創膏を貼り替えながら、ダンスの稽古したりして。「ああ絆創膏が邪魔だな」
就寝前にまた傷口を見てみると…。んにゃにゃ?絆創膏に薄く焼けた皮膚がくっついてくる…あ、剥がれちゃった。現れたのは角質層が取り去られた毛細血管うずまく薄ピンクの表皮。ところどころは真っ赤に沈んでる。ううむ、これは自宅治療では難しいのかも。知人友人に尋ねると「火傷は治るのに時間がかかるんだよ。早く病院に行きなさい!あんたはせっかちなんだかのんきなんだかっ」
ちょいと怯えたわたしは、優しい女医の先生がいらっしゃると噂の皮膚科に向かったのです。
先生「アイロンで?あらあら痛かったわね〜」
50代半ばの先生は凛とした中にもほんのりした雰囲気をお持ちの柔らかい物腰。その問いかけにほっとさせられます。
先生「しばらくは毎日いらしてね。お風呂は控えて、毎日消毒とお薬を塗って、今日は痛み止めと抗生物質を出しておくから2、3日飲んでね」
わたし「(心の声)なんやたいそうやなぁ。えらいこっちゃなぁ(なぜか関西弁)」
先生「腕の内側の薄い皮膚だし、右手は動かすから治りにくいのよ。お時間かかるかも知れないわね」
わたし「あ、あの、運動とかしてもいいんでしょうか」
先生「あら駄目よ、駄目!本当は腕を吊ってて欲しいくらいなんだから。火傷の跡は残したくないでしょ。それに早く治したいでしょ」
わたし「はい…」「(心の声)ダンスにヨガにピラティスに野口体操どうしよう」
右手の運動を極力控えて生活するようにとのお達し。パソコンのキーボードもできればたたかない方がいいらしい。やはりどうも、アイロンの熱は高温で、火傷が非常に深いこと。応急処置の流水は真夏のため温度が高く冷却不足だったこと。すぐに続きのアイロンがけをしたり、翌日も動きまくって右腕を休ませなかったこと。以上が起因して、久々にやっかいな怪我と付き合うことになりました。
通院中は「熱傷の患者さん」と呼ばれます。今の皮膚科はアトピー症状などアレルギーの方が多いので、処置室では注目の的です。毎日の消毒は「ひいぃ」としかめっ面になるしみ具合です。最初の2、3日はこの「ひいぃ」が数時間続くので参りました。そして先生のお人柄なのでしょう、大変人気ある皮膚科で、受付をして診察・薬の処方まで2〜3時間かかることもしばしば。1週間経ったところで、
先生「良くなってきてますね。ゴシゴシやらなければシャワーにあててもいいですよ。お薬も一式出しておきますから、今夜からご自分で処置してみましょう。看護師が詳しく説明しますからね。左手ですることになるけど大丈夫かしら。ご主人に協力して貰ってね」
わたし「(心の声)ふん!ひとりでできるも〜ん」
先生「来週またいらしてね(超笑顔)」
わたし「はーい(泣きそう)」

処置はこうです。シャワーの後に殺菌済の個包装綿棒を消毒液に浸して火傷箇所に。消毒したら、これまた殺菌済の個包装木ベラで軟膏(クロマイ−P)をたっぷり傷口へ。その上から皮膚再生の薬をしみ込ませた冷保存のガーゼをかぶせ、さらに滅菌ガーゼで腕を覆います。最後にガーゼがかくれるくらいの包帯を巻いて完成。
最初は緊張感と共におどおどやっていたのですが間もなくストレスにくじけそうになるわたし。まず、汗をかいたりシャワーを浴びたりする度、この一式をテーブルだの壁など使って腕を押さえながら雑菌が入らないように左手で行うのに疲労困憊。少し経って運動を再開したところ、どのスタジオでも「どうしたの〜?」と余計な心配をかける上に、案の定、右腕の可動範囲は狭い。のびやかに動いて大きく見せたいのに、短い腕と小さな手が余計に目立って仕方ないったら。
シャワーを浴びても違和感がなくなり、時折襲うかゆみも落ち着いたのは1ヶ月後のことでした。現在も40日経過していますが、包帯はまだ取れません。気候は衣服を長袖に変え、どんどん移ろいゆく季節。ホントに結構時間がかかるわ。赤い熱傷にじわりじわりと皮膚が戻ってゆく感じで、あと数日は包帯の日々かしら。
自分の腕を熱中させるなんてね。しあわせなアイロンがけの時間が恐怖に思えた出来事だけれど、注意一秒怪我一生、油断大敵、おっちょこちょいは時々自分を省みろ。改めて注意力を実感として教わったよい機会でした、はい。
そして今日もわたしは、ぶんぶんアイロンをかけるのです。
この間、西武池袋線が人身事故で遅れました。最寄り駅行きの電車は見通しが立ちそうにない。急行の止まる駅まで行ってそこから歩いて帰ろう。夜11時頃だったでしょうか。住宅街を歩いていると、何だか甘い香りが鼻先に触れ、
香水?

その流れが右後方に変わったので振り向いて戻ると、歩道側にお庭らしきスペースがあります。何だかぼうっと銀や白のオーラをまとった風に見える一角。近づくと芳しさのもとはやはりこの辺り。正面に立つと数個の花がこちらを向いています。その大輪の白さに一瞬言葉を失い目が離せなくなりました。
月下美人だっ
わたしは植物を見る時いつも思う。「ゆっくり、息をしてる」
その後、物言わない草花樹木独特の「まっすぐで少し怖い感じ」を受ける。
月下美人は花弁の広がりが掌のようで、こちらが覆われてしまう錯覚さえして、毅然とした色気があるの。完全にるるべの負けでした。

月下美人はさし木してから花開くまで3〜4年かかるのだそう。さすがに大ぶりな花だけに、ガクやつぼみにも力がありますよね。だんだんカーブして上を向き見事な花を咲かせるその様子は、動きと時間が美しさを際立たせ、お手入れされている方にはたまらないでしょう。
お花も人間も情熱が内側にしっかりあるのってかっこいい。
数枚写真を撮らせて頂いて、妖しげな雰囲気をハートにも閉じ込め、てくてく帰宅したのでした。

RELEVE (るるべ) |
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レオタードの趣味が悪い?そう?脚はもっとあがるからねっ。 『RELEVE』はフランス語で「高く持ち上げる」の意。ダンス用語では爪先立ちで全身のバランスを保つことなの。この状態から、まわりもの(回転)など多くの振りが生まれるのよ。でも『PLIE(プリエ…かがむ動き)』をしっかりやらねば、『ルルベ』に芯は通りませぬ!身長はもう157cmより高くならないけど、これからも私なりの世界を広げてゆけるかしら、って…そんな名前。 本籍:大分 血液:B 愛読書:TARZAN 座右の銘:いつも心に青空を。 | |